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ひろしま食物語 ひろしま食物語

働き者の小さな命に、ありがとう

2018年11月執筆記事

庄原市東城町
藤本農園

藤本 聡

 藤本農園には毎春、小さな新入社員たちが大勢仲間入りする。安心・安全な米作りを支える立役者、アイガモ艦隊である。
 藤本農園が長年取り組んでいるアイガモ農法は、その名の通り、田んぼに放鳥したアイガモによるさまざまな働きを活用した栽培方法。雑草を食べることによる除草効果、害虫を食べることによる害虫駆除効果が得られるため、殺虫剤や除草剤などの農薬に頼らずにすむのが代表的なメリットだが、ほかにも、泳ぎながら田をかき回すので土に酸素が回り、稲の生長を促すなどの効果があったり、排泄する糞尿が有機肥料として作用したりとさまざまな恩恵を受けられる。

 今年も無事に大艦隊が到着したと聞いて、5月29日に藤本農園を訪れた。小屋に案内してもらうとグワー! グワー! と元気にかけ声を上げながら、右へ左へとヨチヨチ歩きでせわしなく動き回っている。総勢約250羽。どの子がリーダーなのかは分からないが、誰かが動けばみんな一斉に同じ方向へと大移動するのが面白い。素晴らしいチームワークで、これなら田んぼでも力を合わせて良い仕事ができそうな予感。田んぼに放鳥するのは田植えが終わってから。田植えが終わるまで、水に慣れ泳ぎの訓練をしながら出番を待つ。
 この日は田植えも見学。町内の至る所に広がる田んぼには水が張られ、水面にうっすらと周囲の山々を映し出している。藤本農園の圃場に到着すると、聡さんのお父さん、勲さんがスタンバイ。苗を田植機に移し替えると田植機にどっしりと腰を据えて、いざ出発。田植機の大きな車輪がズブズブ…と田んぼの泥をとらえながらゆっくりと侵入。勲さんは貫禄のハンドルさばきで丁寧にマシンを操り、圃場を端から端へ、折り返してまた端へ。勲さんが通った後には、苗が描いた点線が幾筋にも引かれている。
 この後、町の風景を撮影するために少し高台に登って見下ろすと、苗が並んでいる田んぼ、水を張って田植えを待っている田んぼがパッチワークのように田園風景を織り成していた。

 6月18日、アイガモたちの研修も終わり、ついに田んぼデビューしたとのことで、仕事ぶりを見学に。稲の合間をスイスイと泳ぐ姿を想像しながら現地に到着し、アイガモちゃんたち頑張ってるかな~なんて期待を込めて周りを見わたす。すると、最初に目にしたのは…なんと、田んぼのほとりの畦でくつろぐアイガモ艦隊。お、泳いでいない…? 座ってる…? は、働いていない…! 想像とは全く異なるなんとも衝撃的な瞬間だったが、ほのぼのとした光景に思わず笑みがこぼれた。まあ、アイガモだって休憩もする。朝早かったから朝礼中だったのかもしれないし…。

 その後、別の圃場に案内してもらうと、いましたいました。せっせと働くアイガモ艦隊。各隊にはアイガモに混じってアヒルの姿も。アヒルがリーダー的役割を担って統率を図っているのだという。  アイガモがカラスや犬などに狙われることもあるため、動物よけのネットや柵を張るなどの対策も必要だという。それでも毎年何羽かは被害にあってしまう。酷な話ではあるが、アヒルはアイガモよりもどんくさいところがあり、アイガモよりも先に襲われてしまうことが多いため、アヒルが無事な場所は安全であるという目安にもなるという。

 稲が成長するとアイガモが稲穂を食べるようになってしまい、体が大きくなると稲を倒してしまうこともあるので、稲刈り前には放鳥していたアイガモを引き揚げる。
 一生懸命働いて役目を全うしたアイガモたちは最終的には鴨肉として食されることになる。藤本農園では秋の収穫祭で、アイガモと一緒に作った米と、鴨鍋をふるまう。小さな命の働きがあったおかげで、今年もまた安心しておいしいお米を食べることができる。アイガモへの感謝を噛みしめながら、参加者たちは身をもって命の重みを学ぶ。

 9月22日、いよいよ稲刈り。前日まで雨が続き、天気予報とにらめっこしながらこの日を待った。行きの道中は曇天、到着すると青空が。この幸運は、どなたの行いの良さゆえか。雨の翌日は水分で機械が詰まりやすかったり、コンバインがぬかるみにはまってしまったりとトラブルが予想されるため収穫を控えるケースが多いが、藤本農園のコンバインは大型のため、ぬかるみに耐えやすいとのことで決行となった。
 自然は毎年思い通りにはならないが、今年も試練を与えられた。西日本を中心に全国の広い範囲で甚大な被害を及ぼした平成30年7月豪雨。藤本農園のある東城町における被害は大々的にニュースで報じられることは少なかったが、土砂や浸水による被害は決して少なくなかった。藤本農園は大きな被害は免れたものの、今年の収穫量は少なめの予想だという。
 到着して聡さんを待つ間に、アイガモ小屋をのぞいてみた。前回見た時よりも拡張された小屋の中で、すっかり大きくなったアイガモたちがのびのびと走り回っていた。にぎやかな鳴き声とせわしない大移動は相変わらずのようだ。

 しばらくすると、すでに一汗かいている聡さんが「今、臼挽きをしているので見てみますか」と作業場に案内してくれた。場内にはゴォーンゴォーンと機械音が鳴り響いている。
 刈り取って脱穀したもみを乾燥させる際、藤本農園では水分を14.5~15.5%に調整する。急速に乾燥させると割れてしまうし、遅すぎると仕事にならないため、休ませながら適正なペースを保つことが大切だ。
 乾燥が終わると臼挽き(籾摺り)といって、もみ殻を取り除いて玄米にする工程へ。この段階で、虫食いで黒くなっり割れたりしている粒や石などの異物を機械で自動的に選別。さらに玄米の表面を削って精米すると、白い粒が姿を現す。厳密な水分調整と選別によって、美しい光沢をまとい、つやつやに仕上がっている。

 作業を一通り見学させてもらった後、稲刈りをする圃場へ。圃場の脇には大きなコンバインがスタンバイしていた。燃料を補給して、稲刈り開始。外周からぐるりと回りながら刈り取っていく。じゅうたんを織るように稲をパタパタと巻き上げながら進む。
 ある程度刈り取ったら、コンバインのタンクに溜まったもみを一旦排出する。圃場脇に待機させたトラックの荷台にもみ受け用のコンテナがセットされており、コンバインに付いている筒状のアームからザザザーーーーーッともみのシャワーが噴出。近くに寄ると、勢いよく噴射したもみの粉じんに襲われるので要注意。服の繊維に入り込むとかゆくてつらい(…と襲われたカメラマン談)。

 あらためて辺りを見わたすと、蝶やトンボが飛び回り秋の訪れを感じさせる。そんなのどかな風景から視線を落とすと、あぜ道がずいぶん凸凹になっている。どうやら今年はイノシシが多いらしく、この凸凹道もやつらの仕業で農家は苦慮しているという。
 もみをいっぱいに積み込んだトラックの運転席をのぞきこむと、バックミラーに可愛いてるてる坊主がぶら下がっている。「お父さんが仕事しやすいように」と娘が作ってプレゼントしてくれたそうだ。そうか、今日の晴天もこのてるてるさんのおかげか。この秋は米農家に優しい穏やかな天候に恵まれますように。親子の願いが天まで届くことを祈る。

藤本農園公式サイト
https://www.aigamoya.net/

交流直売施設「あいがも屋」

〒729-5127広島県庄原市東城町粟田2939
Tel. 08477-2-2528

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掲載記事内容は取材当時のものであり、
現在の内容を保証するものではありません。