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ひろしま食物語 ひろしま食物語

個性が集まり、真っ直ぐに夢を追う

2020年7月執筆記事

安芸高田市八千代町
wagrica

神農 一幸

 株式会社wagrica田中秀二さんも音楽を愛する一人。20歳で大阪の専門学校を中退し、やりたいことをするなら今しかないと、当時興味があったDJを目指した。大阪のクラブでDJ見習いの募集を見つけたが、見習いなので給料はなし。それでもそのクラブでウエーターをしながらDJの勉強をしていた。
 1994(平成6)年頃に友人の縁で広島のディスコを紹介してもらい、大阪から広島に戻ってDJ見習いとして働くことに。それから1年半ぐらいでそのディスコは閉店になったが、ほかのクラブからDJをやらないかと誘われ、週末はそこでDJとして働くことに。
 DJの仕事がない平日の日中は商社に勤務。この商社で働いている時、2003(平成15)年頃に神農さんが入社してきて、二人は出会った。
 二足のわらじともいうべき生活が長期間続いたが、2012(平成24)年に商社を辞め、飲食店を始めることになった。それでも週末はDJに精を出す日々。飲食店を始めて1年経過した頃にクラブのオーナーから店を経営してみないかとお誘いを受け、念願のクラブを経営する立場に。2014(平成26)年に飲食店を閉店し、クラブ経営一本に取り組むことになった。
 2016(平成28)年にクラブは閉店し、その後は友人のもとで建設関係のアルバイトをしていたが、長きにわたり親交のあった神農さんから、一緒に仕事をしないかと誘いが。内容を聞いてみると、これから農業に取り組むとのこと。それならぜひやりたいと決心した。

最初は広島市安佐南区で5アールほどの面積からスタート。5アールなら管理も十分に行き届いていたが、新会社を設立し安芸高田市八千代町に来てからは面積が広がった。そうなると当然ながら、全ての作業に時間がかかる。土づくり、畝立て、トンネル作り…今までと同じように作業していると、小玉西瓜の早い成長過程に芽かきなどの手入れが追いつかず、手の付けようのない状態になってしまう。今年は管理がしやすいように、畝の幅、トンネルの数、仕立て方などさまざまな部分を改善し、昨年よりも良い手応えを感じながら栽培できているそうだ。

 「私は自身の経験から、植物や圃場に手を入れたら入れた分だけ、良い作物ができると確信しています。常日頃から農作物を観察していて問題があればすぐに調べます。ですが、こうかな? ああかな? と迷うことも多い。経験値を積むことで諸問題にすぐ対応できるようになり、結果として良い農作物ができると思います。去年は思うような収量は得られませんでしたが、品質は良かったと思います。僕たちが作った小玉西瓜を食べて『おいしかった!』と言われるとうれしいですし、手をかけて作って本当に良かったと思います。DJは依頼があればいつでも引き受けます。DJも農業も同じことがいえるかもしれませんが、集中して一生懸命やらないと、人を感動させることはできないと思います。DJをする際は、その時に遊びに来ている客層や現場の雰囲気、お客さまの状況などを見ながら展開を組み立てていきます。一曲一曲、集中して本気でつないでいきます。農業も圃場にいる植物一株一株の状態をよく見て、丁寧に世話をします。DJも農業も共通している部分だと思います」。

 株式会社wagricaの代表取締役を務めるのは井上喜久美さん。経理業務をサポートする株式会社シンシアの代表も務めている。神農さんとの出会いは2018年、シンシアが安芸高田市に支店を出店したのがきっかけ。市内の企業などが集う場で、神農さんの農業に対する考え方に共感し意気投合した。
 実は井上さんは以前から農業に興味があり、シンシアの一事業として「しんしあ農園」を運営し、土にこだわって自分たちで育てた野菜を広島や関東に宅配するサービスを提供していたという実績がある。
 井上さんは安芸高田市出身だが、大学進学で関西に出て、その後結婚で関東に移り、30年ほど都市生活を送ってきた。都会で暮らしながら年齢を重ねるにつれ健康志向が高まり、体に入れる食べものは厳選したいと考えるように。そこから農業へと気持ちが向いていった。
 「農薬をたくさん使い、見た目が美しい野菜を作り、できるだけ儲ける。生計を立てるにはそれも一つの手段ではありますが、私は、大地の恵みである土壌が命だと考え、安心して食べられる野菜を作りたいと思ったんです」。

 経営という点ではまだ経験の浅い神農さんにとって、経営のプロフェッショナルである井上さんは頼もしい存在であり、経験が長い分つい慎重になってしまいがちな井上さんにとって、フットワークの軽さや真っすぐな行動力が持ち味の神農さんは勇気を与えてくれる存在。互いに個性を生かしながら役割を果たし、ワグリカを前へ前へと進めている。
 「経験があるからこそ判断できる部分ももちろんありますが、時代はどんどん変わるから、私は自分がやってきたことが絶対だとは思いません。実際、若い人たちに教わることもたくさんあります。会社というものは関わる人たちみんなの力で創り上げていくもの。いろいろな個性があっていいのです」。

 今は支店だけでなく自宅も安芸高田市に構え、生まれ故郷に戻った井上さん。「ヘビが苦手なんですけど(笑)空気がおいしくて、緑が輝いていて、空は文字通り青くて…空を見上げることが多くなりました。田舎ってなんて素晴らしいんだろう! と思うから、都会の友人を呼びたくなります」。
 地元の大地に足をつきながら、心は世界にも向いている。「壮大な夢ですが、世界に通用するワグリカブランドを築きたい。今は世界中どこにいても、良いと思えば手に入れられる時代。農業を軸に、世の中が、世界が、喜んでくれるものを提供したいですね。こんな素晴らしいものが、日本の、広島の、安芸高田市にあるんだって」そんな夢を神農さんと語り合う日々だという。

 「彼は本当に熱い男。真っ直ぐで。そんな人と一緒に夢を追うのは刺激的。人がもっと集まったらいいですね。人が集まればアイデアが出てきます。それを一つ一つ行動に移すうちに、夢に近づいていくのだと思います。人の力って、やっぱりすごいですよ」。

wagrica公式サイト
https://wagrica.co.jp/

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掲載記事内容は取材当時のものであり、
現在の内容を保証するものではありません。