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ひろしま食物語 ひろしま食物語

知られていないから面白い

2017年9月執筆記事

尾道市因島
尾道パパイヤ

内海千晴

 「広島でパパイヤ?」尾道市御調町でパパイヤを育てている人がいると初めて聞いた時の率直な感想だ。パパイヤといえばトロピカルフルーツ。熱帯諸国や、日本であれば沖縄などの南国で栽培されているイメージが強かった。よくよく聞いてみると、ここで育てているのは、完熟前の段階で収穫して野菜感覚で楽しむ「青パパイヤ」で、タイ料理ではメインの野菜としてよく使われており、栄養価が高く美容・健康志向の人に好まれているという。

 4月25日、苗の植え付け作業を見せてもらえるということで、興味津々で畑を訪れた。畑は町内の耕作放棄地(1年以上、農作物が作付けされず作付け予定も立っていない田畑や果樹園などの農地)を活用しており数カ所に点在している。この日の現場は国道脇に開かれた15アールほどの畑。これから植え付ける苗がズラリとスタンバイしていた。茎は真っ直ぐにスッと伸び、高さは膝丈ほどで、先端から青々とした葉を広げている。苗のビジュアルからしてトロピカルムードが漂い、とても可愛くて絵になる。
 一通り見学した後、栽培しているのは露地(屋根のない屋外の畑)だけではなくハウスもあり、そこにはすでに実を付けた木があると聞き、案内してもらった。
 ハウスに入ると、先ほどの苗とは比べものにならないパパイヤの大木とご対面。幹はどっしり、地にしっかりと根を張りめぐらしている。背丈を超える高さに伸びた幹の先にはふさふさと葉が茂り、その根元にはこぶしサイズの実がゴロゴロと実っていた。ハウス内は、まさに南国。「こんなに大きくなるんですか!」驚いて尋ねると「天井がなければ5メートルくらい伸びるみたいですよ」との回答にまたびっくり。
 収穫時期は8~12月だが、冬以降も木に実を残しておいて、オフシーズンのニーズにも出来る限り対応しているという。

 再び畑を訪れたのは2カ月半近く過ぎた7月12日。4月には膝丈だった苗は胸の高さほどに伸び、茎も太く、葉も大きくワサワサと茂っていた。
 地面を見ると何かあちこちで動いているような…目をこらすと、カエル。それも1匹や2匹ではない。ぴょんぴょんぴょんぴょん面白いくらいに畑中至る所で飛び跳ねている。踏んづけてしまわないように足運びも慎重になる。
 この日は草刈りと、実に栄養を集中させるための剪定作業。しゃがみ込んでしまうと誰がどこにいるのか、かくれんぼできそうなくらいのびのびと広がっていた葉っぱも、話を聞いているうちにいつの間にか見通しよくスッキリ刈られていった。
 洋平さんがパパイヤ栽培に携わるようになって今年で3年目。「今までで一番いいですね」とホッとしている様子。8月に迎える収穫の日を心待ちにして、畑を後にした。

8月9日午前9時、因島に到着。この日は青パパイヤの収穫。御調町のビニールハウスよりも因島の方が広く、より温暖なため実りが早いとのことで、今回はこちらへ。
 当初は雨予報だったが雨雲は予定より遅れているようで、時々青空ものぞいた。曇り空とはいえ真夏の太陽は容赦ない。温度計は26℃を指していたが、雲をすり抜けて肌に刺さる日差しはそれ以上に思えた。
 ビニールハウスの中に入ると熱のこもった空気に体が包まれた。午前9時でもこの暑さ。「真昼はさすがに耐えられません」とすでに仕事を進めていた千晴さん。顔中に汗のしずくが光っている。ほどなく編集部の顔からも汗がポタポタ…Tシャツの色も変わっていった。最高気温は50℃を超えることもあるらしい。
 3棟あり、1棟につき75本の青パパイヤの木が植えられている。編集部の身長を余裕で超える高さに伸び、大きな葉を広げた木には、青々と大きく育ったいくつもの青パパイヤが「食べごろだよ」と収穫の時を待ちわびている。

 千晴さんが両手で実を包むようにして根本をくるっとひねってもぎとると、切り口から白い液体がジュワッとあふれた。これが「パパイン酵素」だ。パパイン酵素は、タンパク質、脂肪、糖という三大栄養素の全てを分解する働きがあり、青パパイヤは「食物酵素の王様」と呼ばれている。そう聞くと、思わずその場でペロッと舐めてしまいたくなるが、刺激が強いため、直にふれると肌が弱い人などはかぶれてしまうこともあるとのこと。表面にあふれ出た酵素はふきとってから出荷する。
 スクスク育った実は重さ1キロを超えるものもあり、コンテナはあっという間にいっぱいになった。この日は3ケースほど収穫。50キロくらいになるという。
 去年は台風の時にビニールハウスを閉めたら気温が上がり過ぎて、1棟の青パパイヤが全滅してしまった。それでも数本を除いて復活し、今年は元気に育っているというからたくましい。それを教訓に、今年は台風で閉めた後、開けるタイミングに気をつけたという。
 およそ1時間。撮影も無事終わり、外に出て冷たいお茶をいただくと、水分を絞り出された編集部は潤いを取り戻した。
 青パパイヤはサイズも形も一つ一つ個性的。形状による味の違いはないという。皆さまのもとに届く青パパイヤは、どんな顔をしているだろうか。

尾道パパイヤ公式サイト&オンラインショップ
http://onomichipapaya.com/

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掲載記事内容は取材当時のものであり、
現在の内容を保証するものではありません。