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ひろしま食物語 ひろしま食物語

なんだか楽しそうな響き

2017年9月執筆記事

尾道市因島
尾道パパイヤ

内海千晴

 洋平さんの姉の千晴さんは(株)尾道熱帯植物研究センターの設立当初から正社員としてパパイヤの栽培に携わってきた。「耕作放棄地を活用するのは良いアイデアだと思ったし、何より『パパイヤ』というのが面白そうだなと思いました」と千晴さん。
 比較的大きな規模でスタートした事業だったため関わる人も多かったが、パパイヤ栽培の経験者はおらず、何もかもが手探りだった。青パパイヤの存在すら知らず、つくることが決まってから初めて沖縄から取り寄せて食べたという。
 さてどうやってつくるか。農業関連の機関や大学、沖縄のパパイヤ農家などに話を聞いたが、気候や土など条件が異なる環境では、教わった通りにつくっても上手くいくとは限らない。結局、つくってみるしかないと腹をくくり「これではダメだ」「こうしたら上手くいった」と自ら経験を積み重ね試行錯誤した。
 初年は、1本の木から、いつ、どれだけ収穫できるかすら分からない状態。初めて収穫を迎えた時は「あ、できたな」と、とにかくホッとしたという。1年に一度しかチャンスがないから、上手くいかなかったことを翌年の課題にして解決する。その成果もあって「今年は一番上手にできたかな」と笑顔を見せる。

 スタートとほぼ同時期に、父・龍吉さんの病気が発覚し、龍吉さんが思うように事業に携われなくなった時、自分も含め何も分からないメンバーばかりでどうなるのだろうと不安はあった。しかし、始めてしまった以上はどうにかしなければという一心で、とにかく自分にできることは何かを懸命に考えた。
 そんな時、千晴さんの芯にあったのは「目の前に生き物がいて、自分たちが育てている。育てたいと思って始めて、育てたいと思うから続けている。だから、これからも、これまで通り育てていくだけ。それはごく当たり前のこと」。
 栽培のこと、出荷のこと、あらゆる課題を抱えながら毎日をなんとか乗り越えていた時、弟の洋平さんが帰ってくることを聞いて正直、ほっとしたという。それからは、洋平さんが主に営業面を、千晴さんが栽培面を、役割分担しながら取り組んでいる。「姉弟で働いて良かったと思うのは、お互いに思っていることを遠慮せず言ってしまえることですね」。

 「パパイヤは栄養価が高く、うちでつくっているものは無農薬だから皮まで安心して食べてもらえるという自信があります。だから、体に良さそうだけど好んで食べたいとは思わないという人にも、どうすれば食べてもらえるかを考えて、自分だったらこんなふうに食べたいな、飲みたいなと、あれこれ工夫するのが楽しいですね」。
 千晴さんには幼い二人の娘がいるが、パパイヤを食べてくれるという。道の駅で購入するお母さんに聞くと、ニンジンやピーマンは食べないけど、パパイヤなら子どもが食べるからという声も聞かれるそうだ。
 千晴さんがパパイヤを育てるようになって、娘たちも畑によく遊びにくるようになった。虫が大嫌いだった娘たちも、自然と触れ合ううちに、カエルをつかんで遊ぶくらいたくましくなったらしい。
 千晴さんは御調町生まれの御調町育ち。近隣の町に出ていたこともあるが、結局この町に落ち着いた。「学生の頃は田舎がすごく嫌でした。でも、町を出てみるとなぜか帰りたいと思えて。子どもを育てるなら、こんな場所がいいのかなとも感じています。蛍が飛んでいたり、外でのびのびと花火やバーベキューができたり。1日中お日さまに当たるようになって、私自身たくましくなったように思います」。

 「ほかの農家の人たちは、パパイヤなんて絶対につくらないって言うんですよ。知識がある人ほど無理って。でも、農業は入りづらいけど、パパイヤならやってみたいと来てくれる人もいるんです。パパイヤって、なんだか楽しそうじゃないですか?」千晴さんはパパイヤと出会ってから、今もなおパパイヤと過ごす毎日にワクワクしているようだ。
 洋平さんと、よく今後の話をするという。「たとえば、こんなところに出荷するにはどんなルートがあるかなとか、こんな加工品をつくるならどうすれば早く実現できるかなとか、手の届きそうな夢を語り合って、モチベーションを上げています。かないそうな夢だから、楽しいです」。
 「面白そう」「楽しい」「育てたい」千晴さんからはそんな言葉がたくさん聞こえてきた。目の前の命に責任を持つこと、自らの意志でやりぬくこと、そして思いきり楽しむこと。南国の太陽みたいにエネルギッシュな千晴さんはきっと、パパイヤのように周りに元気を与える存在なのだろう。

尾道パパイヤ公式サイト&オンラインショップ
http://onomichipapaya.com/

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掲載記事内容は取材当時のものであり、
現在の内容を保証するものではありません。