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ひろしま食物語 ひろしま食物語

仲間と一生続けられる仕事を

2018年3月執筆記事

尾道市瀬戸田町
セーフティフルーツ

能勢賢太郎

 「レモンって高いし、儲かるんでしょう?」と言われることがあるという。でも能勢さんは「うちのレモンは高くない。もともと親父がこれならやっていけると付けた値段のまま。レモンがブランドになって売れるようになったからといって値上げすることはありません。儲けようと思えば儲けられるじゃろう? と言われるけど、自分だけが儲けるよりも、ここで働いてくれる人たちと一緒に一生を終えられるような仕事にしたい」。外国人を雇って人件費を抑えたらという声もあるそうだが、コストの問題でなく、地元の人でも島外の人でも、かつ社会的弱者といわれる人も含め、ここに集まった人と一緒に働き続けることが、能勢さんの幸せだ。
 理想は農家のセーフティーネットのような環境づくり。「たとえば高齢などの理由で畑に行ける日が減ってしまって普通栽培の基準をクリアできなくなったら、農家で食べていくのが難しくなりますが、逆に農薬を減らして肥料も有機に切り替える。そして買う人に理解してもらうことで売れる道筋を作れば、細々とでも農業を続けられるかもしれない。たとえば一般企業で定職に就くのが難しくても、体調の良い時だけ働ける環境があれば続けられるかもしれない。そんな人たちのために僕にできることはないかと考えています」。

 能勢さんはサラリーマン時代に日雇い労働者への炊き出しに参加したことがあった。「ホームレスって怠惰の象徴みたいに見られがちで、実際、炊き出しをもらっても礼も言わずに帰るような人もゴロゴロいるんですけど、身寄りがなく、日雇い労働をしているうちに体を壊して住むところも手放さざるを得なくなったような人も大勢いる。本当に頑張って生きていたのに以前のように生きていけなくなった人を見ていると、無縁社会に疑問を感じるし、それを放っている社会も寂しいなと。さらに僕らが生まれる前の高度成長期の日本の話を読んだり聞いたりするうちに、豊かさって何なのかを考えるようになって。お金なんて所詮人間が作ったもの。人間が作ったものに人間がずっと振り回されているなっていうのが僕の感覚。そんな中で、たった数名ではあるけど、今のスタッフと一緒に働ける毎日に、お金に換えがたい豊かさを感じています。だから、社会的弱者であろうがなかろうが、いろんな人たちと仕事ができる環境をつくっていきたいですね」。

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掲載記事内容は取材当時のものであり、
現在の内容を保証するものではありません。