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ひろしま食物語 ひろしま食物語

地域の声に、猟師の存在意義を実感

2018年5月執筆記事

三次市三和町
みわ375

片岡 誠

 片岡誠さんの父・片岡隆人さんは、狩猟歴約45年。兄に誘われて狩猟を始めた。隆人さんいわく「あの頃はシカなんてほとんど見ることはなかった」。当時は有害鳥獣駆除という名目ではなく、あくまでも趣味としての狩猟。シカは捕獲禁止で、狩猟対象はキジやヤマドリなど鳥ばかり。その後はウサギなども捕獲するようになったが、徐々にシカが増え始め、最初はオスのシカのみ捕獲が許可され、さらに被害が拡大したためメスも捕獲可能に。ここ50年足らずの間に三和の里山では「今は狩猟に出れば必ずシカに出くわす」ようになり、獣害に頭を抱えるようになった。自然環境の変化にあらためて驚かされる。

 狩猟を始めてしばらくは、銃を構えると「心臓が飛び出すような、自分の心臓の音が自分でも聞こえてくるような」すさまじい緊張が走ったという。初めて仕留めたのはウサギ。それも3匹というから珍しい。イノシシを始めて撃った時は2頭で、この時の気持ちは今でも心に残っているという。「外した時は撃った瞬間の衝撃を感じるが、仕留めたら不思議と感じない」らしい。巻き狩りという狩猟方法では、猟犬が追い詰めた獲物を仕留めるのだが「犬が鳴くと、その前に必ず獲物がいるということ。どっちに出るか、こっちに来るか…来ればいいという気持ちと来なければいいという気持ちと(笑)」緊張と興奮が極度に高まる猟師特有の感覚が、猟師をまた次の狩猟へと駆り立てるのかもしれない。
 普段は道を歩くカエルやヘビも除けて通り「無駄な殺生はしない」という隆人さん。狩猟については「罪悪感というのはありません。狩猟は獲物を仕留めるのが目的で、その目的を果たすという感覚」だという。

 狩猟に子どもを同伴させることは安全上あり得ないことで「教える間もなくいつの間にか狩猟免許を取っていた」という息子の誠さんが取り組んでいる事業について聞いてみると「今はシカが多いから成り立つのではないかと思う。シカを捕獲しても『埋却』『焼却』『自家消費』の3つくらいしか処理の方法がなく、そのうち埋却と焼却がほとんどで食べる人はあまりいなかった。シカは肉質が硬くて食べるのに向かないといわれていましたが、料理方法次第」。有害鳥獣といわれる野生動物の新たな生かし方を模索する息子の姿を、期待のまなざしで見守っている。
 隆人さんは「有害鳥獣駆除の期間を意識するくらいで、特別な『使命感』を感じて駆除に臨んでいるわけではない」という。しかし「(地域の人から)感謝されることは増えましたね」と地域における猟師の存在意義が高まっているという実感は肌で感じているようだ。
 猟師の世界にも高齢化問題が重くのしかかっている。隆人さんが狩猟を始めた頃に比べて三和町の猟師も半分くらいに減ったという。「三和で数人の若者が狩猟免許を取ろうとしているらしい。若い者がおらんとダメ。猟師がおらんようになったら獣害が増えて、そのうち野菜を作る人もおらんようになる」と隆人さんは憂う。野生動物と背中合わせに暮らす町で、猟師の果たす役割はますます重要になっている。

 今回の撮影には片岡さんの相棒である狩猟犬のブラウンくんも協力してくれた。撮影のためトラックで運ばれてきた時、狩猟に出かけられると期待してかケージの中からまだかまだかとうれしそうな表情。人間たちが寒さに肩をすくめる中、真っ白な道を元気よく駆け回っていた。この日は会えなかったが、もう一匹、ビーグルのコジロウくんという猟犬もスタンバイ。狩猟はしないが甘えん坊&癒し担当、トイプードルのあずきちゃんも仲間入りしたとか。

みわ375

三次市三和町上壱2098-1
Tel.0824-52-2778
営業時間/10:30~18:00
定休日/火曜日

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掲載記事内容は取材当時のものであり、
現在の内容を保証するものではありません。