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ひろしま食物語 ひろしま食物語

彩りが消えたら収穫の合図

2020年1月執筆記事

三原市大和町
金原農園

金原 貴生

 11月26日、植え付けの取材からちょうど7カ月。金原農園では10月初旬から収穫が始まっていたが、編集部はようやく取材に伺うことができた。
 毎年蓮根のシーズンには「金原農園レンコン直売所」と大きく書かれた大きな看板が、道行く車からも目に留まるように立つのだが、この日は見当たらず。代わりに「販売中」の小さな看板と「掘りたて大和白竜レンコン」の幟が蓮根シーズンの到来を告げていた。後で金原さんに尋ねてみると、多忙なこともあり、看板設置はつい後回しになっていたそう。「看板を立てなくてもお客さんが来てくださるので、いいかな~と思って(笑)」と金原さんらしくゆるいコメントをいただいた。

 前回訪問した7月から、田んぼはまた様変わり。水面を覆っていた緑や華やかな花の姿はすでになく、枯れ果てた花と茎が立ち並んでいる。一見さみしげだが、これは泥の中で蓮根が立派に育ったことを告げる収穫の合図。よく見ると、いくつも節を連ねた蓮根が白い肌をさらして、至る所にプカプカと浮かんでいるのが見える。連なっていると細長く見えるが、一節一節、どっしりと立派に生長している。
 夏に訪れた時に心配していた収量だが、やはり例年に比べて少ないようだ。10月上旬から収穫スタートし、田んぼ3面のうち、取材時点ですでに1面分が終わっているそう。食べる通信発行予定の1月まで蓮根が残っているのだろうかと心配になったが「大丈夫だとは思いますが、残っていなかったら、すみません!と謝るしかないですね…」これまた金原さんらしいコメント。ますます心配…。

 ゴムの胴長を履いた金原さんが、ホースを担いで田んぼの中へ。底に膝をつくように中腰で、枯れた花や茎をかきわけながらゆっくり歩みを進める。泥水の上からは蓮根の様子は確認できないため、底に埋まっている蓮根を手で探り、埋まっている場所に向かって用水路からくみ上げた水をホースから勢いよく放水することで、蓮根の周りの泥を飛ばして掘り出す。プシューッ! プシューッ! 蓮根を傷つけないよう丁寧に。
 蓮根はいくつかの節が連なっているが、金原さんは長短を選別しながら収穫する。水面から姿を現した蓮根は、ずんぐりごろごろ短めだったり、ニョロッと細長かったり。1メートルほどにスラリと育ったものも多く、長いまま出荷するケースもあるそうだ。
 一つまた一つとコンテナに積み上がっていく蓮根たち。田んぼから引き揚げたコンテナを一輪車に載せ替えて作業場に運ぶ。これを一人で1日何往復も繰り返す。基本的にはその日の出荷量や直売所での販売予定分を、毎日収獲する。
 この日は比較的寒さが和らいでいたが、それでも田んぼに手を浸すとひんやり。これからますます強まる寒さの中で、氷を張ることもあるという冷たい泥水をかきわけながら一人黙々と作業を続ける金原さん。想像するだけで体の芯まで冷えてくる。慣れているとはいえ「雪が降る中で収穫する時はさすがに、さむいの~さむいの~って震えてますよ(笑)」。人には厳しい気温だが、蓮根は寒さが増すごとに糖質をたくわえるので、これからますます旨味が増していくそうだ。

 収穫した蓮根は全体の泥を水で洗い流し、不要な根を取り除き適度なサイズに切り分けるなどの処理を施すのだが、その後、再び泥を塗っている。土つきの状態で出荷することで、乾燥を防ぎ鮮度を保つことができるのだ。ふと「洗っても結局泥を塗るなら、最初から洗わなくてもいいのでは?」と単純な疑問が。しかし節と節の間にモジャモジャと伸びている根をはじめ全体に付着した泥を洗い流すことで処理がしやすくなるため、やはり一度洗う方が効率的だという。
 ナイフを入れるたびに、シャキッシャキッと音を立て、心地よい食感をアピールする蓮根たち。そばで見ていてほしくならないわけがない。ということで、取材後は編集部全員が購入して帰った。

金原農園レンコン直売所

三原市大和町大草4305-2
シーズン中(10月~3月)のみ販売

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掲載記事内容は取材当時のものであり、
現在の内容を保証するものではありません。