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ひろしま食物語 ひろしま食物語

土が全て。何年かけても最高の土を

2022年1月執筆記事

東広島市八本松町
アグリ・アライアンス(脇農園)

脇 伸男

 脇さんは、常に先のことを考えながら土づくりをしてきた。「常に疑問を持ち、いろいろな人に会って話を聞いて、どのような人の話にも一つは良いところを見つけて、持ち帰り試してきた。理論と実践を繰り返して結果を見れば、何が良いのかだいたい分かってくるからね」。
 さらに、良い土をつくることさえできれば、何でもつくることができると胸を張る。「いつ誰に何をつくってほしいと依頼されても、つくれる土壌はできていると自負している。もちろんそれだけ資金が必要だから、楽ではないんよ(笑)」。良い微生物がたくさん働く良質な土から、良質な成分をしっかりと農作物が吸い上げる状態をつくることが農業の基本であると、脇さんは考え、それを若者にも知ってもらい、これからの農業に生かしてほしいと願っている。
 「理想の土が完成するまでに何年、何十年かかるか分からないけど、そこを目指していきたい。土は裏切らないから。良い土からできる農作物は、出来が違う。日常生活の中で健康を脅かす要因となるものはいろいろあって、人はそれにどう対応していくかということが重要だけれど、体を健全化することでそれらの影響を最小限に抑えられるんじゃないかなと。だから、人の体に優しいもの、食べると体が良くなっていくようなものをつくりたい。そのために良い土をつくっているわけです。体が健全なら、さまざまなことに耐えうる可能性がある。これを人間の体力温存というならば、土の場合は地力温存が大事。健全な土が持つ地力によって健全な農作物が育てば、結局は人の健康につながるんじゃないかなと」。

 「本当に体に良い野菜というのは、意外と少ないんよ」と脇さん。農作物は土壌の窒素成分を硝酸態窒素という形で取り込むが、窒素自体は必要な成分でも、過剰に与えてしまうと、ゆくゆくは人体に悪影響を及ぼす可能性がある。「海外では硝酸態窒素の安全基準を厳しく規制している国もあるけど、日本の農作物においてはそれがない。だから濃度が高いものも流通してしまう。体のためにと思って食べているはずの野菜が毒になってしもうたらいけまぁ。子どもに毒を食わせたくないじゃろう」。
 脇さんは両親が農業に従事していたこともあって硝酸態窒素の危険性を知っていたので、農業を始めた頃から窒素を過剰に与えないよう土壌の状態には細心の注意を払い、自分がつくった農作物については、硝酸態窒素の検査を続けている。「販売されている野菜が全て検査を受けて、その結果を分かりやすく貼っておけばいい。そうすれば目に見えて消費者も意識できるから。でも今はそうじゃないから、野菜は見た目で選ばれることが多い。本当にそれでいいのか。見た目でなく、本当に体にいい野菜を選ぶ目を持ってほしい。作る側や売る側も、見た目ではなく本質にもっと目を向けないと。子どもたちには体にいいものを食べてほしいじゃない。今は多くの野菜が年中食べられるでしょう。本来は、旬のものを旬に食べれば、おいしく、安く、食べられるのに。そういったことも、大人から子どもに伝えてあげないといけんのよ」。
 人々がおいしい野菜を食べ、健康でいられる未来を願う脇さんは、若者の育成にも熱心だ。脇さんのもとで学ぶ若者は、4年前に訪れた時には4人だったが、そのうち二人はすでに独立して近くで農業を営んでおり、現在は二人の息子さんを含めて10名が、毎日畑で汗を流している。
 脇さんに教えを乞う人は次々とやってくる。「私の考えややり方を理解してくれる人が、ぜひ自分もやってみたいと望んで来てくれる。それぞれがいいと思うものを持ち帰ってくれればいいから、私は全てオープン。未来のために本当に体にいい野菜をつくりたいと、本気で取り組んでくれる人に受け継いでいってもらいたいし、そうやって、農業者みんなが良くなっていけばいい。そして最終的に、若者たちがおいしいものを、おいしいと笑って食べられることが一番うれしいことよね」。
 「農業は、夢」前回も、今回も、何度も何度も脇さんの口から出てきた言葉。そこから発せられる熱は、高いまま、以前と何も変わっていなかった。「基本的な方針はずっと変えていないつもり。夢をかけるものだから、空回りすることも多いけどね(笑)。心から楽しめる農業をつくっていきたい。若者が夢を追いかけられるような産業であることが大事だと、私は思っています。そんな未来を描きながら、先へ先へと目を向けて計画を立てる。こんなことをやりたいね、こんなふうにやっていこうねと語り合いながら。農業は常に戦いですよ。それを克服するのもまた面白いし、そうやって毎年だんだんと土が良くなって、体に良くておいしい農作物ができるようにと、夢を見ながら楽しむ。これが一番。私は口は下手だけどハートで勝負。気持ちの温かさ、やる気といった熱いものを心に持っとるつもりなんよ」。

アグリ・アライアンス公式サイト
https://agri-alliance.com/

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掲載記事内容は取材当時のものであり、
現在の内容を保証するものではありません。