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ひろしま食物語 ひろしま食物語

アスパラガスに聞いてみる

2017年3月執筆記事

広島県三次市吉舎町
おかもと農園

岡本明憲・岡本久美

 アスパラガスは春先から初夏にかけて(3~5月)一通り収穫が終わると、元気な株を「親茎」として残し伸ばしていく(親茎を立てる)。その親がたくわえた養分を糧に、夏から秋にかけてまた子どもである若茎が伸びてくる。夏場のビニールハウスはもじゃもじゃと葉っぱのように生い茂る茎(擬葉)で緑のカーテンに包まれ、土からニョキッと顔を出している春とは別世界だ。
 久美さんは「親茎を立て始めてからの管理がとても重要」という。この時期は春のアスパラガスが一段落し比較的手が空く時期でもあるので、親茎が全部立ってしまうまでは畑に入らず、休憩期間にするという生産者もいる。しかしおかもと農園では、アスパラガスがとれないこの時期でも最低1日1回は畑に入る。毎日様子を見て、水を欲しがっていないか、元気がないものはいないか、面倒を見る。親茎も一斉に立てるのではなく、元気な茎だけを残しながら間引くように、一部に密集したり、生えていない箇所ができたりしないように、毎日こまめに管理することで、畑全体にまんべんなく株が広がる。

 シーズン中は決して目を離さないから、3月から10月まで休む暇がない。お盆も5月の大型連休もないから「子どもが遊びたい盛りにどこにも連れて行ってやれず、かわいそうなことをしました。私たちにとってはゴールデンウイークではなくブラックウイーク(笑)」と振り返る。その娘さんは、忙しくてなかなか出かけられない明憲さんと久美さんに代わって、おかもと農園のアスパラガスを使っている飲食店や販売している店に時々出向き、レポートしてくれるという。
 そんな二人のお楽しみは、オフシーズンの温泉旅行。「旅先で食事にアスパラガスが出ると気になりますし、旅行先でいろいろな方と出会うから、パンフレットを持ち歩いています。結局アスパラガスからは離れられませんね(笑)」と笑う。久美さんは冬場限定で卓球にも打ち込む。「母が卓球をしていたので、家を建てたとき、父が記念に、大工さんに頼んで大きな木の卓球台を作ってくれたんです。幼い頃からそこで遊んでいたので今でも好きです。冬も体を動かしていないと、ぶくぶく太っちゃうから(笑)。でも3月に入った途端、8カ月間ご無沙汰になります」。

 明憲さんいわく「出始めの2カ月くらいはどこのアスパラガスもだいたいおいしい。あとは、そのおいしさが早く落ちるか長持ちするか。長くおいしさを出し続けることができるのは株が元気な証拠。同じ畑で育ったアスパラガスでも味は違います。市場では収量に応じて価格が変動しますが、うちでは価格の基準は『味』。基本的に春一番のアスパラガスが一番おいしいので、シーズン中、春以上に値上げすることはありません。おいしさの価値を分かっていただけるとうれしいですね」。おかもと農園の理想は、甘く、柔らかく、太くて食べ応えのあるボリュームたっぷりのアスパラガス。最近は飲食店も太物志向で、顧客に求められることも多い。

 ビニールハウス栽培とはいえ、毎年気候が変動するため、常に1年生みたいなものだという。毎年同じやり方では上手くいかないため、その時の状態を見ながら臨機応変に対応するしかない。農業はマニュアル通りにはいかない。圃場によって土壌の質も違えば必要な肥料の配合も違う。生産者から教えてほしいと頼まれることもあるが、別のところで教わったやり方と違うと否定されることも少なくない。明憲さんは言う。「うちは、自分たちに合うように試行錯誤した独自の方法をとっています。自分たちにできる範囲で、絶対に必要なことと、省力化できることを判断し、圃場に合わせて臨機応変に変えているんです。マニュアルに縛られず、頭を柔らかくして、自分のスタイルをいかに見出していくかが大事だと思います。アスパラと話ができるようになったらたいしたものです」。さらに久美さんは続ける。「あとは、やはり人を大事にすること。人とのお付き合いが一番です。単純に、物とお金が入れ替わるだけの関係ではなく、私たちは心を伝えたい。そうすればきっと相手の方も心を伝えてきてくださるので」。

 今後は、できることなら後継者に任せたいと、募集をかけている。いきなり引き継げるものではないから、できるだけ早く見つけ、育てていきたいところだ。「後継者は、家族で来ていただくのがベストかなと思っています。その代わり、そうなれば私たちも覚悟を決めなければなりません。一家を養わないといけませんからね。守ってほしいのは品質と信用。信用を築くのは長く、失うのはあっという間ですから」と久美さん。
 さらに「もし、後継者が見つからず、主人に先立たれて一人になったら、その時はあっさり辞めて、今まで培ったノウハウを生かしたいと考えています。養鶏やアスパラガスの栽培にはヘルパー制度がありません。だから休みなしで働かなければならない。そんな農家さんを休ませてあげられるように、私がヘルパーになれたらいいなと思って。養鶏もアスパラガスの栽培も特殊な仕事だから、誰にでも任せられるものではありません。でも私には経験があるので、損をしないように少しは力になれるのではないかと。私が主人より先に逝くかもしれませんけど(笑)」そう言って笑う久美さんの隣で、明憲さんはニコニコ苦笑い。そんなほほえましい二人も「ケンカしない日の方が珍しいですよ。ほとんどが仕事の話。お互いストレートですから。24時間365日ずっと一緒にいて、よく話すことがあるねと言われることがありますが、一緒にいるからこそ、共通の話題があるんですよね」。

 久美さんはアスパラガスのことを「この子」と呼ぶ。二人にとってアスパラガスはわが子だ。お二人の優しい笑顔には、アスパラガスと、アスパラガスを食べる人たちへの温かな愛情がこもっている。そしてその笑顔の向こう側には、最高のアスパラガスを届けるために決して曲げない強さが息づいている。「アスパラガスは、収穫した後も生きているんですよ」という久美さんの言葉がとても印象的だった。ある日、アスパラガスをいただいた帰りの車の中で、水分を含んだ新聞紙にくるまれたアスパラガスは、グングン水を吸いながらシャキッと背筋を伸ばしているように見えた。懸命においしさを守ろうとするその姿は、健気で、たくましく、愛おしい。

おかもと農園

広島県三次市吉舎町丸田504
Tel. 090-9739-0169

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掲載記事内容は取材当時のものであり、
現在の内容を保証するものではありません。