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ひろしま食物語 ひろしま食物語

赤青緑、鮮やかな実りの農園

2019年11月執筆記事

庄原市比和町
白根りんご農園

白根浩治

 白根りんご園のりんごを初めてかじり「来年も食べたい!」と待ちに待って迎えた翌シーズン、初めて園を訪れたのは2019(平成31)年4月9日のこと。真っ赤な果実がたわわに実る色鮮やかな農園のイメージとはほど遠く、生命が息を潜めて沈黙しているかのような静寂の光景が広がっていた。
 ザラザラの幹からくねくねと枝を伸ばした裸ん坊のりんごの木が一面に並ぶ。色鮮やかな実りの季節もいいけれど、幾重にも重なり合う木々のシルエットがとてもアーティスティックで神秘的に感じられた。
 そばに寄ってよくよく見てみると、あれ、ところどころ小さな芽を吹いている。「今年もりんごの物語が始まるよ」ひっそり黙っているようで、実は着々と実りの準備を進めているんだな。そう思うと、裸ん坊の木々が一気に生命の色に染まって見えた。

 次に訪れたのは5月8日。摘花の時期。摘花は一つ一つのりんごに養分がしっかり行き届くように、余分な花を摘み取る作業だ。りんごの花は一つの蕾から複数の花が咲くため、一本の木だけでも数えきれないほどの花の塊が付いている。その塊を、それぞれ一輪の花だけが残るように手で摘み取り、さらにその処置を全ての木に施すのだから想像しただけで気が遠くなるが、りんごの品質を左右する大切な工程の一つなのだ。本来は花が開く前のタイミングが最適だが、白根りんご園は主に浩治さんと妻のかなさん二人で作業しているので、開花に間に合わず、咲き終わってから摘花せざるを得ない木もあるそうだ。

 7月17日には摘果。5月の「摘花」は花を摘む作業だったが、今度の「摘果」はまだ膨らみ始めたばかりの幼果(りんごの赤ちゃん)の段階で、良質な実だけを残してほかの実を摘む作業。こちらもとても大事な工程。訪問すると、足もとはまるで青い実の絨毯が敷き詰められたよう。2カ月前にあれだけの花を摘んだにも関わらず、こんなにたくさんの実を摘むのかと驚いた。
 枝を整える剪定、摘花、摘果という一連の作業は全て、りんご1個に養分がしっかり行き届くようにするのが目的。これらの工程をどれだけ丁寧にこなせるかが、りんごのおいしさを左右するのだ。摘果を終えると台風シーズンの到来。浩治さんとかなさんが大切に育てているりんごたちの無事を祈って園を後にした。

 9月19日、いよいよ収穫の日。裸ん坊の木々、愛らしい花々、緑の絨毯、訪れるたびに違う景色を見せてくれたりんご園は、この日どんな姿で私たちを迎えてくれるのだろうとワクワクしながら向かった。
 細い山道を車で上がっていくと、りんご園が見えてきた。「かわいい!」「おしゃれ!」「白雪姫!」思わずはしゃいでしまった編集部一同。深い緑色の葉にまるまると熟した真っ赤な果実。晴れた朝の陽光に照らされ爽やかな青空に映えて、ひときわ輝いて見えた。熟し加減は木よっても違うし、同じ木でも高低や日当たりによっても違う。
 編集部も収穫のお手伝いをさせてもらえるということで、浩治さんにもぎ方を教えてもらってチャレンジ。りんごの頭からピンと伸びている「ヘタ」「軸」などと呼ばれる棒状の部分が、枝と実をつないでいるのだが、枝とのつなぎ目辺りに指を添えて、パキッと折るように力を加えるとすんなりと外れてくれる。こんなに細く短い部位に果実の重みを預けてぶら下がっているのも不思議。
 熟した実を探しながらパキッパキッ。楽しくてつい夢中になってしまう。浩治さんたちは収穫期になると毎日毎日大量のりんごを一つ一つ手でもぎ取っているのだ。あまり積み重ねると傷んでしまうためコンテナは満タンにはしないけれど、それでも持ち上げるとずっしり重い。大変な労働だなとあらためて実感する。
 我慢できなくなった編集長が一声「一ついただいてもいいですか?」「ぜひ食べてください」と快く返事してくれた浩治さん。お言葉に甘えて編集部みんな一つずつ、もぎたて完熟りんごをガブリ。なんて贅沢。「甘い!」いただいたのは「つがる」という品種。甘くて、みずみずしくて、シャキッとした歯ごたえ。浩治さんは甘いりんご、かなさんはほどよい酸味を感じられるりんごがお好みだそう。  途中からかなさんが合流。かなさんは浩治さんが就農する前からりんご園での作業を手伝っていたため、現場作業はかなさんの方が詳しいことも多いのだとか。二人が声をかけ合いながら作業を進める姿に、白根りんご園は浩治さんとかなさん二人三脚で営む農園なのだと納得する。

 2時間ほど「りんご狩り」を楽しませていただいた後、ふもとの直売所に。直売所にはつがる以外の品種のほかに、白根りんご園のりんごを使ったジュース、ジャム、シードルなどの加工品もずらり。ついさっきかじったばかりのりんごの味を忘れられない編集部が、欲しくならないわけがない。取材後はどの商品をお持ち帰りしようかと、ショッピングも楽しませてもらった。

白根りんご農園公式サイト
https://shirane-apple.com/

白根りんご農園直売所

〒727-0312 庄原市比和町木屋原819-2
Tel.0824-85-2482

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掲載記事内容は取材当時のものであり、
現在の内容を保証するものではありません。