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ひろしま食物語 ひろしま食物語

人様ではなく「りんごの都合」

2019年11月執筆記事

庄原市比和町
白根りんご農園

白根浩治

 和幸さんはりんごに関しては初心者だったので、りんご園を始めた当初は専門機関に相談することもあったが、人に頼ることをあまり好まず、ほぼ我流で、何度も失敗を繰り返しながら試行錯誤で進んできた。
 浩治さんと共に働くようになってからは口で語るより背中で見せながらりんご栽培のノウハウを伝え、そんな和幸さんの意図するところを察しながら、浩治さんは学んでいった。「新しい技術などについては専門機関に相談することもありますが、基本的には父に学んだことが役立っています。特に父が身をもって学んだ失敗から得るものは多いですね」。

 和幸さんが身を引いてからは、かなさんと共に勉強し話し合いながら進んできた。「父がいる時は、どこかで頼る気持ちがあったと思いますが、それではいつまでたっても僕らが成長しないという思いもあって、父は引いたのかもしれませんね」父から学んできたことに加え、今は自らの失敗と経験からも、さらに学びながら進化している。
 かなさんは出産後に子どもを保育園に預けるようになってから、和幸さんの手伝いを始めたため、浩治さんよりもりんご園での経験が長い。「今でも『摘果がまだ甘い』とか妻にダメ出しされるんですよ」浩治さんにとってかなさんは仕事上でも安心して頼れるパートナーなのだ。
 「二人になってから、最初はとにかくずっと不安で、本当にりんごが実るのかなって。この時期に父は何をしていたか記憶をたどり、二人で話し合いながら、なんとか乗り越えていました」。自信を持てずに迷っている二人に対し、天災が追い打ちをかけることもあったが「僕と彼女が自慢できるのは、二人ともとてもポジティブだということ。天災の時はその瞬間はとても落ち込みますが、すぐに、次はどうしようと二人で前を向けるので助かっています」。

 浩治さんはりんご園について語る時「僕」ではなく「僕ら」を主語に使う。「技術は彼女の方が上だと思っているし、直売所も安心して任せています。二人のうちどちらかがけがや病気で続けられなくなったら、りんご園をやめるつもりなんです」そのくらい仕事上も互いに不可欠な存在。白根りんご園の「幹」は、浩治さんとかなさん二人なのだ。
 取材で訪れた際は帰りがけに必ず二人そろって手を振り見送ってくれる。その二つの笑顔を見ると、確かに、いつまでも二人一緒にここにいてほしいと願ってしまう。

白根りんご園の作付面積は、和幸さんの代に比べて倍以上に広がっている。今は繁忙期に手伝いをお願いしてなんとかこなしているが、そろそろ限界の域。しかし需要に十分に応えるためには収量を増やさなければならない。そこで法人化を目指し、収量も人員も拡大できるよう環境を整備している。
 法人化して人材を受け入れるとなると、人の育成も課題となってくる。「一番に、楽しいと思ってもらわないといけない。未経験者でも収穫は結構楽しいんですよ。とって食べられるし、結果が出ているので。でも、そこに至るまでの作業って、最初は楽しくないと思うんです。でも僕らは楽しい。なぜなら、今の作業がのちにどう実を結ぶかをイメージできるから。最終的に箱に入って、どのお客さまがどんなリアクションをするかななんて想像すると楽しくて。だから過程でも頑張ろうと思えるんですよね。そんな体験ができるように導いてあげることが大事なのかなと思っています。あと最初から最後まで一連の作業全てに自分が関われるのが面白いところ。部分的に請け負うのと違って、年中通して働いてもらうことで、そういった面でも楽しさを分かってもらえたらうれしいですね」。
 法人化したからこそできることもあるはず。そのために浩治さんとかなさんは経営についても今懸命に勉強しているところだ。

現在、収穫したりんごはほぼ全て直売所で販売しており、拡大しても「生産者であり販売者でありたい」というこだわりは変えず、基本的には全て直売の方針を貫く予定。対面で、顔が見える関係、声が聞こえる関係を大切にしたいからだ。
 「お客さまから求められること全部に応えたいんですよね」1品種だけじゃなく2品種、甘いのも酸っぱいのも好き、白根りんご園のりんごを使ったジュースが飲みたい、ジャムが食べたい…りんごの品種を増やすのも、加工品を開発するのも、発端はお客さんの声から。現在販売しているのは20品種だが、これから商品として出せるようになる品種はさらに20あるという。計40品種が白根りんご園にはスタンバイしているのだ。
 「口に出すとおこがましいかもしれませんが、品種も、品質も、サービスも、トータルで一番が目標です」。わざわざ遠方から足を運んでくれるたくさんの人たちがいる。「ここのりんごが大好きだから」その気持ちをずっとつないでいけるようなりんご。それが白根りんご園の理想のりんごだ。

 りんご栽培では、病気や害虫予防や着色促進などの目的で、摘果の後、果実に袋をかけることがあるが、白根りんご園では袋をかけない「無袋」で栽培する。太陽の光がしっかり当たるので糖度が上がり食味が上がるのが一番の理由だ。反面、保護するものがないので枝に当たると傷が付いたり、均等に日が当たるわけではないので色むらが出たり、見た目に影響を及ぼす場合がある。
 でも「あくまでうちは食味重視。見た目よりりんごの味で勝負したい。多少傷があっても色むらがあっても味は同じです。あとは良い服を着ているかどうか。たとえば、良い服を着ていないと入れない店もありますから、その場合はそれなりの売り方をしないといけませんが、カジュアルな服でも入れる店で、気軽に食べておいしさを知ってもらうのも大事だと思っています。どんな服に着替えても、着ている人間の魅力は変わらないのと同じです」。

 だからこそ、りんごの食味が最高潮に達した時に食べてほしい。それも率直な願い。直売所に足を運べる日が限られているなど人それぞれさまざまな都合があると思うが、もし許されるなら、時には「人様の都合」ではなく「りんごの都合」に合わせてみるという選択はどうだろう。食べ頃を迎えるタイミングに訪れれば、そんなあなたに後悔させまいとコンディションを整えた最高のりんごに出会えるかもしれない。

白根りんご農園公式サイト
https://shirane-apple.com/

白根りんご農園直売所

〒727-0312 庄原市比和町木屋原819-2
Tel.0824-85-2482

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掲載記事内容は取材当時のものであり、
現在の内容を保証するものではありません。